メンバー寄稿(大津克史)
障害者タクシードライバー奮闘中!
私が障害者ドライバーとしてデビューして、早15年が経とうとしている。
自分で言うのも何であるが、子供の頃から前向き お“調子者”であり、何事にも楽観的、“何とかなるさ精神”で育ってきたつもりだが、中学時代に親より知らされた「筋ジストロフィーという遺伝性の病気であるかも知れない」という言葉はやはり子供ながらにショッキングな物だった。
当時は、部活動の花形サッカー部に入部。そしてもっぱらベンチを温めていた。
それまでは「オレって、練習しても中々足が速くなんないよなぁ」という悩みも漠然とあったが、実はそれほど真剣には考えず、まさに楽観的だった。
その後、医師による「肢帯型筋ジストロフィー」という病気であるという説明を受け、文字通り足腰の筋力が少しずつ衰えていく病であるが、治療法は現在ない。という現実を知らされ、ダメ押し的ショックを持ったのを覚えている。
しかし、それと同時に「この病気で命を落とすことはないでしょう」という救いの一言も頂いた。
その一言が、今までどれ程の救いになったかは計り知れない。何とかなるさ!と。
その後は好きだった料理の仕事へと進み、目標であったレストランオーナーとしての夢も叶ったがやはり病気の進行は止められず、立ち仕事の多い調理現場での限界を知り、今後の望みをかけて転職を思い切ったのが、ちょうど15年前だ。
その頃は、年齢的にも身体的にも転職のハードルはとても高く、社員として雇ってもらえれば十分という気持ちで、未経験のタクシー業界を選んだ。当時はまだ今よりタクシー乗務員への偏見的な思いも多く、”籠や、雲助”的な思いを持っている高齢者もごく一部にいたようだが、タクシーは “究極のマンツーマンのサービス業”と思うと、自然と楽しく笑顔で働くことが出来た。
その後、今から5年程前に宮園自動車にある「身障二種免協会」の事を友人に聞いた。
それまでの会社も働き易かったが、やはり乗務以外の部分で障害者にとっての不自由さは否めなかった。トイレや会議室への移動、駐車場での車の移動など、健常者には些細な事であっても、日常生活での階段・段差等は障害者本人にしか分からないストレスになっていた。
友人からの進めもあり、宮園への転職を決めたのはタクシー経験10年を迎える頃だった。
入社後にまず思ったのは、社内に自然とある障害者への小さな配慮だった。
バリアフリーの社内を移動中、ドアの前では当たり前のように扉を開けて「どうぞ!」と待ってくれる同僚。皆が自然にしているのだが健常者と障害者の共生は意外と難しいものがある。お互いに気を使いすぎてはいけない。自然が一番だ。
それがタクシー会社内で普通に行なわれているという事には、少し驚きと感動があった。
自分でもたまに体験するが、コンビニの入り口ドアなどの取っ手をつかもうとした時に、親切さで扉を急いで引いて開けていただく事がある。お気持ちはとても嬉しいのだが、扉を持って身体のバランスを保っている者にとっては、引っ張られるととても危険なのだ。
ご厚意での事だが、転んでケガでもしてしまうと元も子もない。相手の気持ちを察すると有難いのだが難しい問題だなと思うことである
そういった日常生活で障害者と健常者が接する機会というのは、一般生活の方でどれ位あるのだろう。
タクシーは乗務中には、色々な方との出会いがある。
ほとんどは、行き先までの数十分ほどの時間だが、どうせなら楽しく始まり、楽しく終わりたい。
本来は旅行やお買い物での移動を含め、お荷物やベビーカー、車椅子などの積み込みサービスは必須となっているが、障害者乗務員にとってそれが一番痛いところである。
障害者として皆が思っている事であろう、周りの方への負担や迷惑をかけたくない思い。気遣いをさせてしまうのが申し訳ないという思いだ。しかし、今のお客様は大抵の方が事情を話すと、分かって頂ける。
そして「私もどこどこが悪くてねぇ」からはじまり、一連の会話からの「いや、お若そうですね!」とこちらからの〆の一言。
その言葉を聴くと、大抵の年配の方は笑顔になり、そしてときにはチップなども頂ける事となる。
そんな他愛ないやりとりもあり、又人様の苦労や心遣いを身をもって体験できる事も、都民の足として運行している “タクシー”ならではの事なのかと近頃は思っている。
以前一度だけ事情を話した際、「足の悪いタクシーなんて・・・いるんだ」と苦言を言われ辛い気持ちになった事もあるが、そんな時こそ持ち前の前向き精神を出すことにしている。「まぁ、何とかなるさ!」と。
そんな思いや、少なからず苦労をしながらも前向きに乗務している仲間が、ここ宮園二種免協会には大勢いる。片腕の動かない方、義足を上手く使いこなしている方。まさかタクシードライバーにこんな人が?一般の方からそう思われるような人も、都内をスイスイと走り回るタクシーに乗務している。
又、昨今よりTV等でも話題にされているUD(ユニバーサルデザイン)車両、JPNタクシーが少しずつ増えてきた。身体の不自由な方や高齢の方からも好評で、2年後の2020年東京オリンピックへ向けてが大きな命題だが、本来の健常者・高齢者・障害者の垣根を越えたバリアフリー社会へのアピールという意味でも、素晴らしい車だと思う。
日頃当たり前に使う交通手段の中にこそ、互いの年齢や障害等の壁を無くす為の、又それまでは気付かなかった生活弱者への心遣いなどへのきっかけがあればと切に思う。
ふと乗ったタクシー。普通に走っているタクシー乗務員の中にもこんな人たちがいるんだな、と気に止めて頂けただけでも、これからのバリアフリー社会への小さな貢献になることを願い、又明日から東京を走ります。
“何とかなるさ”
2018年3月